私は日頃、自分の施設でピッチングとバッティングを中心に、パフォーマンスを高めるための身体の使い方(フォーム)の指導とトレーニングの指導をしていますが。よく、球を速くするためにパワーアップしたいのだけれど、どんなことをしたらいいのか聞かれます。そんなときに決まって言うのは、「大切なのはパワーじゃないよ、身体の使い方だよ」ということです。格闘技や、ラグビーなどのコンタクトスポーツならまだしも、野球にとってまず大切なのは身体の使い方です。トレーニングというものはその身体の使い方を行なうために必要な筋肉の働きや柔軟性をつくるものであって、動きとトレーニングは別個に考えるものではありません。パフォーマンスを高めるために「どんな身体の使い方を身につける必要があるのか」、「その使い方をするために足りないものは何なのか」、筋力が足りなければその動きのための筋力トレーニングをする必要があるし、柔軟性が足りなければストレッチや体操をします。どちらにも問題がなければひたすら使い方の練習です。このような目的から方法を導く課題解決型の考え方が大切です。もちろん現状の使い方のまま、パワーアップして、パフォーマンスがあがる選手もたくさんいます。でもその逆にどんどん力に頼るようになり、技術が低下していく選手もたくさんいます。それは、自分の課題を正確にとらえていないからです。みなさんのチームにも力自慢だけれど動きが硬い選手はいるでしょう。
「科学的トレーニング」などと言われれば言われるほど、トレーニング方法ばかりを考えてしまい、本来の目的が競技にあることがどこかにいってしまいます。体力測定や筋力測定をして、身体の能力を細かく分析した上で弱い部分を強化したりしますが、競技や今のプレーにとって強化する必要があるのかどうかが重要であって、測定のバランスなどは重要ではありません。数値のバランスが目的になったら体力のための体力トレーニングです。測定はプレーを分析するための資料にすぎません。大切なのはあくまで競技であって、すべての練習やトレーニングは課題から考えていくものです。そうは言っても実際は「弱いから強化する」ということなのでしょうが、少なくとも、その弱いことでどんな動作がちゃんとできないのかまで考えてください。そうすれば、トレーニング種目はより具体的になり、その動作ができるようになるのです。